口説とは|沖縄音楽の七五調と「上り口説」の意味を解説

沖縄の海と船

こんにちは。栗山新也沖縄三線教室の栗山です。

沖縄音楽には「口説(くどぅち)」と呼ばれる独特の歌詞形式があります。代表曲は「上り口説(ぬぶいくどぅち)」。歯切れよく語るように歌われるこの形式は、本土の七五調を取り入れて琉球で独自に発展したものです。

そして「上り口説」は、ただの旅の情景描写ではなく、「言霊(ことだま)」の力で航海の無事を祈り、旅立つ人を祝福する歌でもあるのです。

この記事では、沖縄音楽研究で博士号を取得した筆者が、「口説」とは何か、代表曲「上り口説」の歌詞と意味、そしてこの形式に込められた文化的背景を分かりやすく解説します。

目次

「口説(くどぅち)」とは何か

「口説」とは、本土の七五調を連ねた歌詞形式のことを指します。沖縄音楽の中でも、物語性や情景描写を重視する楽曲に用いられる形式です。

琉歌調・仲風との違い

沖縄音楽には複数の歌詞形式があり、それぞれ音数律が異なります。

形式音数律由来
琉歌調8・8・8・6沖縄独自の伝統形式
仲風7・5・8・6和歌と琉歌の折衷
口説7・5の繰り返し本土の七五調を取り入れた形式

琉歌調や仲風が四句で完結するのに対し、「口説」は七五調の句を何度も繰り返すのが特徴です。物語を長く語り継ぐのに適した形式といえます。

本土の盆踊りから琉球音楽へ

「口説」は、本土系の盆踊り口説をもとに、三線の手づけ(伴奏譜)がなされて琉球のレパートリーとして定着したと言われています。

本土の浄瑠璃や和讃、盆踊り唄などで用いられる七五調が、海を渡って琉球に伝わり、三線という楽器と結びついて新しい音楽形式へと姿を変えていったのです。

代表曲「上り口説(ぬぶいくどぅち)」

口説形式の代表曲が「上り口説(ぬぶいくどぅち)」です。

「上り」が意味するもの

近世の沖縄では、薩摩へ行くことを「上国(じょうこく)」と呼びました。「上り口説」の「上り」とは、この薩摩への旅を意味しています。

歌詞の内容は、王国の命により外交や連絡のために薩摩へと出張する官僚が、首里を発って薩摩へ到着するまでの道行きを描いたものです。

「上り口説」全八番の歌詞と意味

「上り口説」は全八番からなる長い物語です。一番ずつ歌詞と意味を見ていきましょう。すべての句が「七・五」のリズムで進行します。

一番:首里・観音堂で旅立ちの祈り

旅の出じ発ち 観音堂 先手観音 伏せ拝でぃ 黄金酌取てぃ立ち別る

(たびぬんじたち くわぁんぬんどー しんてぃくわぁんぬん ふしうぅがでぃ くがにしゃくとぅてぃたちわかる)

歌意:旅立ちには首里の観音堂で先手観音を拝み、黄金の酌を交わして立ち別れる

二番:首里の街並みを抜けて

袖に降る露 押し払ひ 大道松原 歩み行く 行けば八幡 崇元寺

(すでぃにふるちゆ うしはらい うふどーまちばら あゆみゆく いきばはちまん すうぎいじ)

歌意:袖に降る朝露を払い、大道の松並木を通って、安里八幡や崇元寺を通り過ぎる

三番:中之橋で別れを惜しむ

美栄地高橋 うち渡てぃ 袖ゆ連にてぃ 諸人の 行くも帰るも 中之橋

(みいじたかはし うちわたてぃ すでぃゆちらにてぃ むるふぃとぅぬ いくむかいるむ なかぬはし)

歌意:美栄地の橋を渡り、多くの人々が往来する中之橋を渡る

四番:臨海寺での涙の別れ

沖ぬ側までぃ親子兄弟 連りてぃ別ゆる 旅衣 袖とぅ袖とぅに 露涙

(うちぬすばまでぃうやくちょーうでー つぃりてぃわかゆるたびぐるむ すでぃとぅすでぃとぅにつぃゆなみだ)

歌意:沖(臨海寺)の側まで親子兄弟が連れ立って別れる旅衣、その袖と袖に露のような涙

五番:いざ出航へ

船ぬ艫綱 疾く解くと 舟子勇みてぃ真帆引けば 風や真艫に午未

(ふにぬとぅむぢなとぅくどぅくとぅ ふなくいさみてぃまふひきば かじやまとぅむに んまひちじ)

歌意:船の艫綱をさっと解き、水夫が勇んで帆を張ると、風は追い風の南南西

六番:三重城・残波岬を後に

又ん巡り逢う 御縁とぅてぃ 招く扇や 三重城 残波岬ん 後に見てぃ

(またんみぐりおう ぐいんとぅてぃ まにくおーじや みいぐしく ざんぱみさちん あとぅにみてぃ)

歌意:またお会いできるようにと、三重城の上で扇が振られ、残波岬も過ぎ去っていく

七番:奄美の海を越えて

伊平屋渡立つ波 押し添いてぃ 道ぬ島々見渡しば 七島渡中ん 灘安く

(いひゃどぅたつなみ うしすいてぃ みちぬしまじまみわたしば しちとぅとぅなかん なだやしく)

歌意:伊平屋島近海の荒波を越え、奄美諸島を見渡しながら、危険な七島灘も平安に

八番:薩摩・桜島に到着

燃ゆる煙や 硫黄ヶ島 佐多ぬ岬ん走い並ならで エイ あれに見ゆるは 御開聞 富士に見紛う 桜島

(むゆるちむりや ゆおーがしま さだぬみさちん はいならでぃ ありにみゆるわ うかいむん ふじにみまごうさくらじま)

歌意:燃える煙は硫黄島、佐多の岬も順調に走り過ぎ、あれに見えるのは開聞岳、富士山に見紛うほどの桜島

「上り口説」は祝福の歌である

ここまで読んでいただいた方は、「上り口説」が単なる旅の道中記であるかのように感じられたかもしれません。しかし、この曲にはもっと深い意味が込められています。

「言霊」の力で航海の無事を祈る

古来、日本では「言霊(ことだま)」―歌われた言葉は現実化するという考え方がありました。

「上り口説」は、この言霊の思想に基づいて作られています。航海が順調に行われる姿を描写することで、現実の航海の無事を祈る―これがこの曲の本来の意味なのです。

近世の薩摩への船旅は、風が順調であっても3日以上かかったといいます。荒波を超え、危険な海域を抜ける長い航海。その無事を、歌の力で祈ったのです。

「口説」の音楽的特徴

「口説」は、歌い方にも独特の特徴があります。

「語るように」歌う

琉歌調の楽曲が、ゆったりと歌詞をのばして歌うのに対し、「口説」は歌詞の一つ一つを歯切れよく、語るように歌われるのが特徴です。

このため、物語の展開や情景描写を聴き手にはっきりと伝えることができ、長い物語を歌うのに適した形式といえます。

様々な「口説」の存在

「口説」形式の楽曲は「上り口説」だけではありません。「黒島口説」のように村々の風光を歌った口説が数多く作られており、各地域の風景や物語を伝える役割も担ってきました。

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